「厚底カーボンプレートシューズ」が長距離界を席巻して数年。今や自己ベスト更新を目指すランナーにとって、プレート入りシューズは欠かせないアイテムとなりました。しかし、その高性能と引き換えに、価格は3万円を超えることも珍しくありません。
そんな常識を根底から覆す一足が、作業服のプロフェッショナルである「ワークマン」から登場しました。 その名も「アスレシューズ ハイバウンス ドリブンソール」。価格は、なんと2,900円(税込)。
「2900円のプレートシューズって、どうせただの板が入ってるだけでしょ?」 「本当に走れるの?安かろう悪かろうじゃない?」
そんな疑問と期待が渦巻く中、この記事では、ワークマンのプレート入りシューズの性能を忖度なしで評価し、その上で「このシューズは“買い”なのか」、そして「どんな人が買うべきなのか」という核心に、どこよりも詳しく、そして具体的に迫ります。
第1章:まず知るべき重要事実 – これは“カーボン”プレートではない
最初に、最も重要な事実をお伝えします。このシューズに搭載されているのは、高級レーシングシューズに使われる「カーボンファイバープレート」ではありません。
- 搭載プレート: Driven PLATE(ドリブンプレート)
- 素材: グラスファイバーを配合した硬質樹脂プレート(Pebax製)です。
- 特徴: カーボンほどの強烈な反発性(バネ感)はありませんが、靴底の剛性を高め、着地から蹴り出しまでのスムーズな重心移動(ロッカー機能)を促し、ランナーを前へ前へと進めてくれる効果があります。
【私の考えと分析】 これを「偽物だ」と切り捨てるのは早計です。ワークマンは、高価なカーボンではなく、より安価で加工しやすい樹脂プレートを採用することで、この革命的な価格を実現しました。これは、「プレートシューズの推進力を、誰もが体験できるようにする」という、ワークマンならではの素晴らしい発明であり、思想です。このシューズを評価する上では、この点を理解することが大前提となります。
第2章:【性能評価】2900円の実力は本物か?
では、実際の走行性能はどうなのでしょうか。各要素を冷静に評価します。
① 推進力・反発性:【評価:★★★☆☆】
「Driven PLATE」と、つま先が大きく反り上がったロッカー構造の組み合わせにより、「コロン、コロン」と自然に足が前に転がっていくような、心地よい推進力を感じることができます。高級カーボンシューズのような「爆発的なバネ感」はありませんが、「楽に前に進む」というアシスト機能は本物です。価格を考えれば、驚異的な性能と言えます。
② クッション性:【評価:★★★★☆】
ミッドソールには、ワークマン独自の高反発素材「BounceTECH(バウンステック)」を分厚く採用。このクッションが非常に優秀で、着地時の衝撃を十分に吸収してくれます。硬いプレートの突き上げ感もなく、足に優しい快適な履き心地です。
③ 安定性:【評価:★★★★☆】
靴底の幅が広く設計されているため、厚底シューズにありがちな左右のグラつきはほとんど感じられません。ランニング初心者でも安心して走れる、高い安定性を確保しています。
④ フィット感と重量:【評価:★★☆☆☆】
フィット感は、全体的にゆったりとした作り。トップモデルのような足と一体化するような感覚はありませんが、多くの人の足に合う万人向けの設計です。重量は約250g(26.0cm)と、最新のレーシングシューズと比較すると重めです。
第3章:【結論】ワークマンのプレートシューズは“買い”なのか?
私の意見を率直に述べます。
「ランニングの目的を正しく理解している人にとっては、間違いなく“買い”。革命的な一足です」
ただし、これには「このシューズに何を期待してはいけないか」を理解するという絶対条件がつきます。 このシューズは、大迫傑選手が履くような3万円のシューズと競争するためのものではありません。*これは、これまで高価で手が出せなかった「プレートシューズによる推進力」という新しいランニング体験を、Tシャツ1枚分ほどの価格で、全てのランナーに解放した**という点で、市場を破壊したゲームチェンジャーなのです。
この価格でこの性能を実現したことは、賞賛に値します。
第4章:【買うべき人】あなたのためのシューズか、ここで判断!
では、具体的にどのような人がこのシューズを買うべきなのでしょうか。
【特におすすめ!買うべき人】
- ① プレートシューズ入門者・試してみたい人
- 「カーボンシューズに興味はあるけど、3万円は出せない…」と感じているあなたに最適です。まずはこのシューズで「プレートによる推進力」がどんなものか、自分に合うのかを試すことができます。これ以上ないほどの最高の入門用シューズです。
- ② ランニング初心者・ダイエット目的で走る人
- 高いクッション性と安定性が、怪我のリスクを減らし、安全なランニングをサポートします。また、推進力アシストのおかげで「楽に走れる」ため、ランニングを楽しく継続する手助けになります。
- ③ 中級〜上級者の「練習用」シューズとして
- レースではトップモデルを履くようなランナーが、日々のジョギングやLSD(ゆっくり長く走る練習)で使うのに最適です。高価なレースシューズの寿命を温存しつつ、日々の練習でもプレートの感覚に慣れることができます。
- ④ ウォーキングや普段履きで、楽に歩きたい人
- このシューズのクッション性とロッカー機能は、長時間のウォーキングや立ち仕事を驚くほど快適にします。ランニングをしない人にも、実は非常におすすめです。
【買うべき“ではない”人】
- 本格的なレースで自己ベスト更新を狙う上級者
- レース本番では、より軽量で反発性の高い、各社のトップレーシングモデルを選ぶべきです。
- 薄底の“ベアフット感覚”が好きなランナー
- このシューズは、厚底で地面からの情報が少ないため、対極のコンセプトとなります。
まとめ:ランニングの“民主化”を推し進める、価値ある一足
ワークマンの「アスレシューズ ハイバウンス ドリブンソール」は、パフォーマンスの頂点を極めるシューズではありません。しかし、それは新しいテクノロジーが生むランニングの楽しさを、価格という壁を取り払って、すべての人に届けようとする、非常に価値のある一足です。
あなたがもし、上で挙げた「買うべき人」に当てはまるのであれば、この2,900円の投資は、あなたのランニングライフをより豊かで、楽しいものに変えてくれる、最高の自己投資となるでしょう。
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