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秩父宮賜杯 第57回 全日本大学駅伝 関東選考会 – 伊勢路への道、切り拓いた精鋭たち

2025年11月2日、愛知県名古屋市から三重県伊勢市を結ぶ「伊勢路」を舞台に開催される第57回全日本大学駅伝対校選手権大会。その出場権をかけた関東学生陸上競技連盟(以下、関東学連)推薦校選考会が、例年より約1ヶ月早い2025年5月24日(土)、神奈川県のレモンガススタジアム平塚にて熱戦の火蓋を切った 。18時開始という例年より遅いスタート時間は、涼しい気象条件をもたらし、好記録への期待を高める要素となった  

この選考会は、各大学が4組の10000mレースに2名ずつ、計8名の選手を送り出し、その合計タイムで競う過酷なサバイバルレースである 。20校が参加し、本戦への出場権を得られるのはわずか上位7校のみ 。各校1名以内という留学生エントリー規定も、チーム戦略に影響を与える 。すでに前回大会の成績により國學院大學、駒澤大学、青山学院大学、創価大学、早稲田大学、城西大学、立教大学、帝京大学の8校がシード権を獲得しており、残された7つの椅子を巡る争いは熾烈を極めた 。この早期開催と限られた出場枠は、各チームに例年以上のプレッシャーを与え、調整の難しさも相まって、一つのミスも許されない緊張感の中でレースは展開された  

目次

総合成績:伊勢路への切符を掴んだ7校と涙を飲んだ強豪校

激戦の結果、伊勢路への出場権を獲得したのは以下の7校である。持ちタイムトップの中央大学がその実力を遺憾なく発揮し、2位に1分以上の大差をつけてトップ通過を果たした  

秩父宮賜杯 第57回 全日本大学駅伝 関東学生陸上競技連盟 推薦校選考会 総合成績

順位 大学名 総合タイム
1 中央大学 3時間50分27秒09
2 大東文化大学 3時間51分28秒02
3 順天堂大学 3時間51分33秒97
4 日本大学 3時間51分57秒08
5 東海大学 3時間52分01秒05
6 中央学院大学 3時間52分41秒58
7 日本体育大学 3時間53分00秒83
ここまで本戦出場 —————–
8 東洋大学 3時間53分12秒19
9 神奈川大学 3時間54分45秒02
10 明治大学 3時間55分05秒75

 

最大の波乱は、名門・東洋大学の予選敗退であった。8位に終わり、7位の日本体育大学にわずか11秒36差で涙を飲み、17年間守り抜いた全日本大学駅伝への連続出場記録が途絶える結果となった 。この事実は、関東の大学駅伝界における勢力図の変化を予感させるとともに、いかにこの選考会が過酷であるかを改めて示した。事前の8選手の合計持ちタイムでは上位3校に名を連ねていなかったものの 、依然として有力校と目されていた東洋大学の敗退は 、過去の実績だけでは勝ち残れない現代駅伝界の厳しさを象徴している。   

一方で、日本大学が4位で「復活出場」を決めたことは 、東洋大学の予選落ちと対照的な結果となり、新たな競争時代の到来を感じさせる。その他、神奈川大学が9位(3時間54分45秒02)、明治大学が10位(3時間55分05秒75)と、実力校が僅差で本戦出場を逃した 。4年ぶりの伊勢路を目指した法政大学も、3年連続で予選の壁に阻まれ11位(3時間55分12秒36)に終わった  

各組リザルトと注目選手の走り

全4組で行われた10000mレースは、各組で熱いドラマが繰り広げられた。

1組目:順天堂大学・山﨑颯がトップ、中央大学が上位独占へ好発進

最初の組では、順天堂大学4年の山﨑颯が29分00秒69で組トップを獲得 。レースは中央大学2年の佐藤大介が序盤から積極的に先行し、東海大学4年の花岡寿哉が追走する展開。5000mを14分38秒で通過後、5800m付近で花岡がペースを上げるも、これに反応した山﨑がラスト200mでスパートをかけ、見事な差し切り勝ちを収めた  

中央大学は、2年の田原琥太郎が29分01秒99で2位、佐藤大介が29分03秒35で3位と続き、チームとして最高のスタートを切った 。この結果、中央大学は1組目終了時点で総合トップに立ち(58分05秒34)、その後のレースへ大きなアドバンテージを築いた。エース格以外の選手が序盤の組でこれだけの結果を残せる層の厚さは、中央大学の総合力の高さを物語っており、後続の選手たちのプレッシャーを軽減する効果もあっただろう。 

2組目:中央大学・吉居駿恭が圧巻の走り

2組目では、中央大学のキャプテンでありエースである4年の吉居駿恭が、他を寄せ付けない走りで28分34秒81の好タイムをマークし、組トップに輝いた 。駿河台大学3年のスティーブン・レマイヤン(28分38秒86で2位)と序盤から抜け出し、ラスト1周で突き放すという力強い内容だった 。吉居は18日のセイコーゴールデングランプリ3000mに出場しており、万全のコンディションではなかったと伝えられる中でのこの快走は、チームを牽引する主将としての意地と実力を示した  

さらに中央大学は、この組に10000m初レースとなる1年の三宅悠斗を起用。三宅は29分23秒84の自己ベストで見事5位に入り、チームの勢いを加速させた 。主将の圧倒的な走りとルーキーの堂々たるデビューは、中央大学の選手層の厚さと育成力の確かさを印象づけるものとなった。3位には順天堂大学2年の池間凛斗が29分21秒18で入った

3組目:大東文化大学・大濱逞真が制す

3組目は、大東文化大学2年の大濱逞真が28分37秒48で組トップを獲得 。中央大学3年の藤田大智が28分39秒00で2位、そして大東文化大学2年の中澤真大が28分39秒32で3位と続いた 。大東文化大学がこの組で1位と3位を占めたことは、総合2位通過への大きな原動力となった。特に、留学生ランナーに頼ることなく日本人選手が上位を独占したことは、箱根駅伝での不振からの「復調」を強くアピールするものであり、チーム全体の底上げが進んでいることを示した

中央大学は藤田の2位で引き続き好位置をキープしたが、もう一人の4年・吉中祐太は18位(29分09秒48)とやや苦戦 。しかし、それまでの貯金が大きく、総合順位への影響は最小限に抑えられた。

4組目:東京国際大学・エティーリが異次元の快走、中央大学・溜池一太が日本人トップ

最終4組は、各校のエースと留学生が激突する最重要ヒート。東京国際大学3年のリチャード・エティーリが27分27秒55という驚異的なタイムで組トップを飾った 。2位には日本大学のシャドラック・キップケメイが27分29秒15、3位には山梨学院大学のジェームス・ムトゥクが27分39秒99で続き、留学生ランナーがそのスピードを見せつけた

この中で、中央大学4年の溜池一太が28分04秒39をマークし、組4位、日本人選手としてはトップの成績を収めた 。溜池は100%の状態ではないとしながらも、「もっと差をつけて勝てると思っていた」と悔しさを滲ませるほどの高い意識でレースに臨んでいた 。中央大学2年の岡田開成も28分30秒23で11位と健闘し、チームの総合優勝を決定づけた

この最終組では、本戦出場権をかけた熾烈な争いが展開された。特に7位の座を巡っては、日本体育大学と東洋大学が最後まで競り合った。日本体育大学は4年の平島龍斗が10位(28分30秒10)、同じく4年の山崎丞が24位(28分47秒89)と粘り、東洋大学の追撃をかわして出場権を確保した 。東洋大学は2年の松井海斗が9位(28分29秒08)と好走したものの、もう一人の内堀勇(27位、28分53秒14)が伸び悩み、あと一歩及ばなかった 。この最終組の結果は、留学生の大きなアドバンテージと同時に、各校の日本人エースの重要性、そして8人全員の総合力が問われる駅伝予選会の厳しさを改めて浮き彫りにした。

上位通過校分析

1位 中央大学:総合力で他を圧倒、完全優勝で伊勢路へ

総合タイム3時間50分27秒09でトップ通過を果たした中央大学は、その圧倒的な総合力を見せつけた 。2位の大東文化大学に1分以上の差をつける完勝であり、事前の8人の10000m平均タイムでトップだった評価通りの実力を発揮した  

1組目の田原、佐藤の2、3位独占に始まり 、2組目では主将・吉居駿恭の圧巻の区間賞とルーキー三宅悠斗の5位入賞 、3組目では藤田大智の2位 、そして最終4組では溜池一太が日本人トップの4位と 、全組で安定して上位に選手を送り込んだ。この安定感と選手層の厚さは、他校を寄せ付けなかった。チームは全日本大学駅伝本戦での「優勝」を目標に掲げており、今回の選考会はあくまで「通過点」と位置付けている 。主将吉居の成長とチーム全体の勝利への渇望が、この結果に繋がったと言えるだろう。その計算されたレース運びと個々の選手の高い遂行能力は、全国の舞台でも有力な優勝候補であることを強く印象づけた。  

2位 大東文化大学:復活の狼煙、2位で本戦へ

総合タイム3時間51分28秒02で2位に入った大東文化大学は、見事な「復活」を遂げた 。特に3組目での大濱逞真の組トップ、中澤真大の3位という日本人選手によるワンツーフィニッシュに近い活躍は、チームの総合力を大きく押し上げた 。箱根駅伝での不調から立ち直り、留学生に頼らずとも上位争いができる地力の高さを示したことは、本戦に向けて大きな自信となるだろう 。1組目の菅崎大翔(6位)、2組目の庄司瑞輝(8位)らも安定した走りを見せ 、チーム全体でのレベルアップがうかがえる。この復活劇は、伊勢路でのサプライズを期待させるに十分なものだった。

3位 順天堂大学:安定した力で3位通過

総合タイム3時間51分33秒97で3位通過の順天堂大学も、その実力を示した 。1組目での山﨑颯の組トップ獲得に加え 、最終4組では3年の吉岡大翔が6位(28分22秒04、自己ベスト)、2年の川原琉人が7位(28分24秒54、自己ベスト)と、エース級が集う組で2人が自己記録を更新する快走を見せた 。2組目の池間凛斗(3位)、3組目の石岡大侑(6位、自己ベスト)など、各組で着実にポイントを稼ぎ、「今年の順天堂大学は期待大」との評価通りの走りを見せた 。多くの選手が自己ベストを更新したことは、チーム状態の良さと本戦でのさらなる飛躍を予感させる。

総括:伊勢路本戦への展望

今回の関東選考会を突破した7校は、シード権を持つ8校とともに、全日本大学駅伝本戦で関東勢の強さを示すことになるだろう。特に、圧倒的な力で予選を制した中央大学は、優勝候補の一角として伊勢路に臨む。大東文化大学の復活、順天堂大学の安定感も注目に値する。

一方、伝統校である東洋大学が17年ぶりに出場を逃したことは、本戦の勢力図に少なからず影響を与える可能性がある。これまで伊勢路を沸かせてきた強豪の不在は、他のチームにとってはチャンスであり、新たなスター校が生まれるきっかけとなるかもしれない。

注目選手としては、中央大学の吉居駿恭、溜池一太、大東文化大学の大濱逞真、順天堂大学の山﨑颯、吉岡大翔らが挙げられる。また、チームとしては予選敗退となったものの、東京国際大学のリチャード・エティーリが見せた27分27秒台の走りは圧巻だった。本戦では、10000mトラックのスピードだけでなく、起伏や気象条件、駆け引きなど、駅伝特有の要素が絡み合う。各チームがどのような戦略で臨むのか、そしてこの厳しい選考会を勝ち抜いた選手たちが、伊勢路でどのような輝きを見せるのか、11月2日の本戦から目が離せない。関東の選考会で見せた各校の戦いぶりは、全国の頂点を目指す戦いの序章に過ぎない。

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